私たちの園がICTを導入したのは、業務効率だけが、目的ではありません。こどもたち一人ひとりの今を、丁寧に記録し、職員全体で共有したい。その思いから、園では独自に保育支援システムを開発しました。保育士がiPadを携帯し、こどもたちの姿を写真で記録しながら、その場で保育の意図や気づきを入力。日誌や連絡帳、保育計画の基礎データとして活用しています。園内での保育士同士の連絡も、インカムを使って密にタイムリーに。こういったシステムは、同じ法人の複数の園にも展開。事故やヒヤリハットの情報をリアルタイムで共有することで、全施設の安全管理にも役立っています。ICTは単なる「便利な道具」ではなく、保育の質を高め、組織としての連携力を強めるための基盤になっているのです。
このドキュメンテーションは単なる記録ではなく、その子らしさや成長を感じる一瞬を捉えることのできる有能なツールです。そのときどんな表情をしていたのか。何に夢中になっていたのか。記録した写真やコメントから、こどもの成長ポイントが見えてきます。このシステムは、こどもを評価するものではなく、こどもの経験や変化を保育士がどう受けとめたかに焦点を当てるものです。撮影した写真は園内にも貼り出し、送迎に来られる保護者さんに自由にご覧いただけるようにしています。この取り組みは「家では見せない一面が見られて嬉しい」などと、とても喜んでいただいています。今や保育士間での情報共有だけでなく、保護者とのコミュニケーションにも役立っています。
ICTの力は、職員の研修や連携の面でもとても大きなメリットがあります。新型コロナ以降、園内の研修はZoomにしましたが、離れた施設にいる職員もリアルタイムで参加でき、しかもクラウドにあげておく ことで、後から録画を見返すこともできます。これまでは日程や移動の都合で参加が難しかった研修も、ICTの活用でハードルがぐんと下がりました。現場で働きながら、必要なときに必要な学びが得られる 。こうした柔軟な体制が、保育の質の底上げにもつながっていると実感しています。ICTは単なる業務の効率化にとどまらず、職員一人ひとりの成長にも力を貸してくれていると感じています。
ICTは、私たちとご家庭との大事な「つなぎ手」にもなってくれました。新型コロナで登園自粛をお願いしていた頃、Zoomを使ったおうち保育を実施。職員が画面越しに手遊びを教えたり、絵本の読み聞かせをしたり・・・。ご家庭でも一緒に取り組んでもらうことができました。保護者から寄せられるお子さんの様子やお悩みに対しても、リアルタイムで応答することが可能になり、「園にいなくてもつながっている」という安心感が生まれました。現在、私たちの法人は、こども家庭庁の「保育ICTラボ事業」にも採択され、より先進的なICTの活用に取り組もうとしています。現場の負担を軽減し、保育の質を高め、何よりこどもたちの成長をみんなで支える。そんな私たちが目指す保育を実現するために、これからもICTの可能性を追求していきたいと思っています。